『Surrealistic Pillow』 CD Bonus Tracks
14. GO TO HER (3:58) 邦題: ゴー・トゥー・ハー
Writer: Paul Kantner / Irving Estes
Vocals: MARTY + GRACE + PAUL
Rec. Date: 1966-11-17
ポールが書いた初期の傑作であり、エアプレインのライヴで重要なレパートリーとなっていたエキサイティングなナンバー。共作者のアーヴィング・エステスという人物は、ポールの友人のソングライターとのことだが、詳しい情報はまったく見つからない。
『Pillow』のレコード制作における大きな謎のひとつが、この「Go To Her」がアルバムへの収録から外されたことだ。シグニが在籍していた時期に一度レコーディングされていて、『Takes Off』の次のアルバムで取り上げられる可能性は高かったはずだ。66年1月のバンクーバーでのライヴで演奏が確認されているように、早くからバンドのレパートリーにもなっていた。
この曲が最初に公開された『Early Flight』のライナーの中で、マネージャーだったビル・トンプソンは『Pillow』に収録されなかった理由について、エアプレインのメンバーたちはスタジオでのテイクはライヴでの演奏を超えることができないと判断したからだと語っている。しかし、数々のライヴ音源で「Go To Her」の演奏を聴いてきた感想から言えば、スタジオ・テイクの完璧とも言える出来の方が明らかに上回っているように思えるのだが。
エアプレインが持つ楽器とヴォーカルの特性が、ひとつの曲の中にバランス良くすべて盛り込まれた理想に近い形の作品だと思う。イントロではドラムに先導されて出てくるギターの変則的なリズムが印象的だ。このリズムを強調するため、ポールだけでなくヨーマも同じフレーズを刻んでいて、2本のギターのコード音の響きが美しい。
間奏部分でのリード・ギターは、簡潔だがエモーショナルなソロを聴かせている。ドラムとベースはダイナミックなリズムをキープしていく合間に、それぞれが短いソロを入れる場面も作っている。
ヴォーカル・パートは、3人による爆発力のあるコーラスから始まり、マーティがソロを取り、次にはグレースがソロを取る。グレースが歌う部分は、どこか懐かしさを感じさせるポップなメロディだ。エンディングではポールがささやくようにソロで歌うパートも用意されていて、エアプレインが持っているものすべてを出し尽くすかのような構成になっている。この曲でのグレースのヴォーカルは、前任者のシグニの歌い方を踏襲しているように感じるが、それはグレースの声の質ともマッチしていて良い結果を生んでいる。
シグニが歌っている初期バージョンと、グレースが入った『Pillow』のバージョンとは、ヴォーカリストの違い以外にも異なる点がある。曲の構成や基本的なアレンジはほぼ同じなのだが、初期バージョンではリード・ギターに12弦エレキを使用していて、サウンド全体の響きに違いをもたらしている。どちらのバージョンも、スタジオ・テイクとしてはかなり完成度が高く、アルバムに収録されるのが当然と思えたのだが。
先に発表された『Early Flight』のバージョンと比較すると、『Pillow』のボーナス・トラックはドラムが左側に定位していること(『Early Flight』では中央)と、エコーが強めに掛っていること以外はそれほど大きな違いはない。
『Early Flight』のバージョン数々の貴重な写真をタップリ使った映像が素晴らしい。