ジェファーソン・エアプレインの音楽の魅力について語ります ☆ 現在のテーマ: 『Surrealistic Pillow』

「Somebody To Love」「White Rabbit」のシングル・バージョン

『Surrealistic Pillow』 CD Bonus Tracks

16. SOMEBODY TO LOVE (mono single version) (2:54)
17. WHITE RABBIT (mono single version) (2:28)
  [secret track] D.C.B.A.-25 (instrumental) (2:36)

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CDのボーナス・トラックの最後は、2つの大ヒット曲のシングル・バージョン(モノラル)が収められている。そして「White Rabbit」が終った後、10秒間の空白を置いて「D.C.B.A.-25」のまだヴォーカルが入っていない制作途中のテイクが隠しトラックとして現れてくる。

実は、この2つの“mono single version”は、シングル盤用のマスター・テープの音源そのものを使っているわけではない。CDのリマスターを手掛けたボブ・アーウィンがインタビューで語っているが、4トラックのマルチ・トラック・テープを使って、シングル・バージョンと同じに聴こえるように自分でリミックスしたとのことである。シングル盤の音源と聴き比べてみても、違いはまるでわからない。

シングル盤のモノラル・バージョンと、モノラル・アルバムのバージョンとは違いがあるのかどうかだが、これも普通に聴く限りでは違いはわからない。ステレオ・バージョンとはさすがに違いが感じられる。『Pillow』は強めのエコーが特徴だけに、モノラル・バージョンでは音の拡がりが抑えられたように感じられる。シングル盤はラジオでのオンエアを意識しているため、リード・ヴォーカルを強調したミキシングがされる傾向にあると思うが、「Somebody To love」も「White Rabbit」もソロ・ヴォーカルの曲で声の輪郭がはっきりしているため、シングル・バージョンでさらに声を前面に押し出しているという印象は感じられない。

個人的にはモノラル・レコードの良さとか奥深さというものがまるでわからないので、どちらの曲もステレオ・バージョンで聴いた方が断然豊かな響きに感じる。
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2012年06月01日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(0)

「Come Back Baby」

『Surrealistic Pillow』 CD Bonus Tracks

15. COME BACK BABY (2:52)
  邦題: カム・バック・ベイビー
  Writer: Traditional arr. Jorma Kaukonen
  Vocals: JORMA
  Rec. Date: 1967-3-6

このスタジオ・テイクは『Surrealistic Pillow』のセッションで録られた曲ではなく、アルバムが67年2月にリリースされた後の3月に録音されたものだ。次の3rdアルバム『After Bathing At Baxter's』のレコーディングが始まったのが6月なので、このテイクはアルバム用に録ったものではないと思われる。これが最初に収録された『Jefferson Airplane Loves You』のブックレットの記録によると、67年3月7日にニューヨークのRCAスタジオで録音されたとなっている。録音日が1日食い違っているのはともかくとして、ニューヨークで録音したという点が注目され、他にも録られたものがあったのではないかと期待してしまう。エアプレインは3月4日には“Cafe Au Go-Go”に出演しているので、その頃ニューヨークに行っていたことは間違いない。

「Come Back Baby」は元々ヨーマの持ち歌で、ホット・ツナのレパートリーとしても頻繁に演奏されレコーディングもされた。それより前のエアプレイン時代に演ったこのバージョンは、よりシャープでスピード感のある弾むような演奏だ。本来はブルースの曲だがヨーマのギター・プレイにはサイケな香りも感じられて、エアプレインらしい作品となっている。

この曲のミキシングはなかなか面白い。中央には主役であるヨーマのギターとヴォーカルが座り、左にはジャックのベースだけが配置されて独特のブリブリ音が唸りをあげている。右側にはドラムとカウベルらしきパーカッション、そしてリズム・ギターが配置されている。リズム・ギターはかろうじて聴こえる程度の小さな音量でミックスされている。
2012年05月13日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(0)

「Go To Her」 (version 2)

『Surrealistic Pillow』 CD Bonus Tracks

14. GO TO HER (3:58)
  邦題: ゴー・トゥー・ハー
  Writer: Paul Kantner / Irving Estes
  Vocals: MARTY + GRACE + PAUL
  Rec. Date: 1966-11-17

ポールが書いた初期の傑作であり、エアプレインのライヴで重要なレパートリーとなっていたエキサイティングなナンバー。共作者のアーヴィング・エステスという人物は、ポールの友人のソングライターとのことだが、詳しい情報はまったく見つからない。

『Pillow』のレコード制作における大きな謎のひとつが、この「Go To Her」がアルバムへの収録から外されたことだ。シグニが在籍していた時期に一度レコーディングされていて、『Takes Off』の次のアルバムで取り上げられる可能性は高かったはずだ。66年1月のバンクーバーでのライヴで演奏が確認されているように、早くからバンドのレパートリーにもなっていた。

この曲が最初に公開された『Early Flight』のライナーの中で、マネージャーだったビル・トンプソンは『Pillow』に収録されなかった理由について、エアプレインのメンバーたちはスタジオでのテイクはライヴでの演奏を超えることができないと判断したからだと語っている。しかし、数々のライヴ音源で「Go To Her」の演奏を聴いてきた感想から言えば、スタジオ・テイクの完璧とも言える出来の方が明らかに上回っているように思えるのだが。

エアプレインが持つ楽器とヴォーカルの特性が、ひとつの曲の中にバランス良くすべて盛り込まれた理想に近い形の作品だと思う。イントロではドラムに先導されて出てくるギターの変則的なリズムが印象的だ。このリズムを強調するため、ポールだけでなくヨーマも同じフレーズを刻んでいて、2本のギターのコード音の響きが美しい。

間奏部分でのリード・ギターは、簡潔だがエモーショナルなソロを聴かせている。ドラムとベースはダイナミックなリズムをキープしていく合間に、それぞれが短いソロを入れる場面も作っている。

ヴォーカル・パートは、3人による爆発力のあるコーラスから始まり、マーティがソロを取り、次にはグレースがソロを取る。グレースが歌う部分は、どこか懐かしさを感じさせるポップなメロディだ。エンディングではポールがささやくようにソロで歌うパートも用意されていて、エアプレインが持っているものすべてを出し尽くすかのような構成になっている。この曲でのグレースのヴォーカルは、前任者のシグニの歌い方を踏襲しているように感じるが、それはグレースの声の質ともマッチしていて良い結果を生んでいる。

シグニが歌っている初期バージョンと、グレースが入った『Pillow』のバージョンとは、ヴォーカリストの違い以外にも異なる点がある。曲の構成や基本的なアレンジはほぼ同じなのだが、初期バージョンではリード・ギターに12弦エレキを使用していて、サウンド全体の響きに違いをもたらしている。どちらのバージョンも、スタジオ・テイクとしてはかなり完成度が高く、アルバムに収録されるのが当然と思えたのだが。

先に発表された『Early Flight』のバージョンと比較すると、『Pillow』のボーナス・トラックはドラムが左側に定位していること(『Early Flight』では中央)と、エコーが強めに掛っていること以外はそれほど大きな違いはない。

『Early Flight』のバージョン
数々の貴重な写真をタップリ使った映像が素晴らしい。
2012年05月11日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(2)

「J.P.P. McStep B.Blues」

『Surrealistic Pillow』 CD Bonus Tracks

13. J.P.P. McSTEP B.BLUES (2:32)
  邦題: J.P.P.マックステップ・B.ブルース
  Writer: Alex Spence
  Vocals: MARTY + Grace + Paul
  Rec. Date: 1966-11-14

軽快なリズムに乗せてエアプレインならではのコーラスが躍動する。同じメロディが繰り返されるシンプルなつくりの曲だが、楽しさと物悲しさが入り混じったような何とも言えない情感がある。タイトルは「ブルース」だが、音楽形態としてはまったくブルースではない。

『Pillow』のセッションでレコーディングされたがアルバムには収録されず、74年の『Early Flight』で初めて発表された。同じくアウトテイクとなった「Go To Her」はライヴの定番曲だったのでファンにはよく知られていたのだろうが、「J.P.P.」はライヴでも一度演奏されたのみで、曲の存在はほとんど知られていなかったと思われる。

半年前にエアプレインを辞めたスキップ・スペンスが単独で書いた曲が、「My Best Friend」「J.P.P.」と2曲もレコーディングで取り上げられたのは不思議だ。スキップが『Pillow』のセッションに現れて、この2曲の演奏に加わったという説もあるが定かではない。『Early Flight』のジャケットにある「J.P.P.」のパーソネルには、ジェリー・ガルシアとともにスキップ・スペンスの名前があるが、担当した楽器などは書かれていない。

『Early Flight』のバージョンと『Pillow』のボーナス・トラックとでは、ミキシングがかなり異なっている。一番大きな違いはヴォーカルで、『Pillow』の方は出だしの部分をマーティがソロで歌っているように聴こえて、かすかにグレースの声が入っている。2コーラス目からは明確に、マーティ、グレース、ポールの3人のハーモニーとなるが、それでもマーティの声が大き目にミックスされている。『Early Flight』のバージョンでは、スタートから3人の声が揃ってワ~ッと出てくる。エンディング部分での違いは、『Early Flight』に入っていた♪ パパッパァ~ ♪ というグレースの声が目立つスキャットがカットされている点だ。

『Early Flight』のバージョン
『Surrealistic Pillow』のボーナス・トラック

『Early Flight』の「J.P.P.」は、すべての楽器とヴォーカルを中央に集めて定位しているが、厳密にはモノラルではない。『Pillow』のバージョンは、各パートを左右中央に散らしている。左側にドラム、ハーモニカ、小さい音のアコギ、右側に目立つ音のアコギ、ヨーマのエレクトリック・ギター、中央にベースとヴォーカルという配置。右側のアコギはイントロで印象的なフレーズを弾き、最後までキレのあるリズム・プレイを続ける。「Plastic Fantastic Lover」のアコギとよく似たタッチと響きなので、これもガルシアが弾いているのだろうか。左側のアコギもリズムを弾いているが、ミックスされている音が小さくて曲の後半ではほとんど聴こえなくなる。こちらがポールかあるいはスキップが弾いているということになるが真相はいかに。

「Go To Her」とともに、この曲もお蔵入りしてしまったのは残念だった。エアプレインのメンバーたちもそのように思っていたのか、再びこの曲を使える機会を探っていたようだ。結局実現はしなかったが、『Volunteers』のレコーディングで「Wooden Ships」の最後の部分にこの曲をくっつける試みを行っていた。
2012年05月09日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(0)

「In The Morning」

『Surrealistic Pillow』 CD Bonus Tracks



現時点での最新音源である2003年CDには、6曲のボーナス・トラックが収録されている。

01.~11. 『Surrealistic Pillow』本編
12. In The Morning
13. J.P.P. McStep B.Blues
14. Go To Her
15. Come Back Baby
16. Somebody To Love (mono single version)
17. White Rabbit (mono single version)

12.13.14.は、未発表テイクを集めた74年のアルバム『Early Flight』に収録されすでに発表されていたが、CDのリイシューを担当したボブ・アーウィンによって『Pillow』の雰囲気に合わせた新たなミキシングが行われた。15.も92年のボックス・セット『Jefferson Airplane Loves You』に収録されているが、同様に新しいミックスだ。


12. IN THE MORNING (6:17)
  邦題: イン・ザ・モーニング
  Writer: Jorma Kaukonen
  Vocals: JORMA
  Rec. Date: 1966-11-21

アルバム・セッションの終わり近くに録られたヨーマのオリジナル曲。エアプレインのメンバー以外のミュージシャンも入って演奏しているブルース・ジャムであり、最初から『Pillow』に収録することは意図してなかったのではないだろうか。

ヨーマの旧友ジョン・ハモンド(John Hammond)がハーモニカで、ステッペンウルフのメンバーとなるゴールディ・マックジョン(Goldy McJohn)がピアノで参加している。ジェリー・ガルシアも加わっているが、ミュートしたカッティングを中心に、完全なサポート役に徹している。右側にヨーマのギターと重なってミックスされているが、ヘッドフォンで聴かないとわからないくらいの小さな音だ。メインのギターは曲を通してヨーマが弾いている。

『Early Flight』に収録されたものと聴き比べてみると、テイクは同じだがミキシングがかなり異なっている。定位で大きく違うのは、ドラムが『Early Flight』では中央だったのが、このミックスでは左側に移っている。左側のハーモニカは『Early Flight』の方が音が大きい。変わらず右側にミックスされているヨーマのギター、ガルシアのギター、マックジョンのピアノは、『Pillow』のボーナス・トラックの方が音がクリアでバランスも良く、エコーの掛り具合も含めて自然な音像になっていると感じる。

演奏内容は主役のヨーマをはじめ充実していて、基本的にジャムなのだがまとまりも良い。ブルースだが後のホット・ツナに比べるともっとクールな雰囲気があり、『Bless Its Pointed Little Head』に収録された「Rock Me Baby」のインスト部分にとても近い演奏だ。
2012年05月07日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(0)

「Plastic Fantastic Lover」

『Surrealistic Pillow』 Side-2

6. PLASTIC FANTASTIC LOVER (2:32)
  邦題: プラスティック・ファンタスティック・ラバー
      (LP初版では「気まぐれな恋」) 
  Writer: Marty Balin
  Vocals: MARTY (+ Paul)
  Rec. Date: 1966-11-01

おそらく原曲は同じくマーティが書いた「3/5 Of A Mile In 10 Seconds」によく似た、ブルース調弾き語りタイプの曲だったのではないだろうか。レコード・テイクの出来上がりはシンプルに聴こえるが、とてもよく練られたアレンジで、スタジオ録音ならではの深みのある作品に仕上がっている。重さとポップさのバランスも絶妙だ。

米国では「White Rabbit」のB面としてシングルにもなったが、日本ではカップリングの違いがあったためシングル化されていない。現在の邦題は「プラスティック・ファンタスティック・ラバー」であるが、『シュールリアリスティック・ピロー』の日本盤が67年に最初に発売された時には「気まぐれな恋」というタイトルが付けられていた。いつの時点で「プラスティック・ファンタスティック・ラバー」に変更されたのかは確認できないが、結構早い時期だったように思う。




この曲にもジェリー・ガルシアが加わっているという。左側で聴こえるリード・ギターは間違いなくヨーマなので、右側のアコースティック・ギターがガルシアなのだろう。イントロも任されていて、キレのある良いプレイだ。他にギターは入っていないので、この曲ではポールのギターの出番はなかったことになる。

重くけだるいムードのリズム隊をバックに弾くヨーマのリード・ギターは音に粘りがあり、フレーズも聴き応えがある。エレキの経験がまだ数年しかなかったとはとても思えないほどの熟練さを感じる。間奏では、サイケだがどこかコミカルなフレーズが出てきて面白い。

ヴォーカルはマーティの完全なソロだが、♪ Plastic fantastic lover ! ♪ と歌う箇所にはポールらしき声がユニゾンで加わっているのがかすかに聴こえる。エンディングでは、グレースらしき声が効果音的にほんの一瞬だが聴こえる。

このアルバムでは唯一ピアノが使われている。小さい音だが右側でずっとピアノのリズム弾きが鳴っている。ジャケットのクレジットに書かれている通り、グレースが弾いていると思われる。エンディングでは ♪ ピュ~、ピュ~ ♪ という効果音に混じってオルガンらしき音も入っている。




マーティがエアプレインに在籍していた70年の終わりまで、ライヴでは常に演奏されていた曲だが、その間にアレンジはどんどん変化していった。68年録音の『Bless Its Pointed Little Head』の頃にはノリの良いロックン・ロールに変身していて、70年3月にジョーイ・コヴィントン(ds)が加入してからは、さらにテンポを上げたハードな演奏を聴かせるようになっていった。

68年11月/『Bless Its Pointed Little Head』に収録のバージョン
70年4月2日/ジョーイ・コヴィントン加入後のスタジオ・ライヴ
2012年05月05日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(2)

「White Rabbit」

『Surrealistic Pillow』 Side-2

5. WHITE RABBIT (2:28)
  邦題: ホワイト・ラビット
  Writer: Grace Slick
  Vocals: GRACE
  Rec. Date: 1966-11-03



エアプレインのメンバーとなったグレースが、グレート・ソサエティ時代のレパートリーの中でエアプレインでも使えそうな曲として提示したのが3曲あったそうで、「Someone To Love」と「White Rabbit」と「Sally Go 'Round The Roses」だったという。「Sally Go 'Round The Roses」も取り上げていたら、エアプレインが料理することで面白い作品になっていたかも知れない。

「White Rabbit」のグレート・ソサエティ時代のアレンジは、前半に長いインプロヴィゼーションがあってソプラノ・サックスが延々とソロを取り、終盤にグレースが歌うパートが出てくるという構成だった。
The Great Society - White Rabbit (66/6 Live At The Matrix)

エアプレインによるリメイクは、リズムをガラリと変えている。モーリス・ラベルの「ボレロ」に似た基本リズムを用いてベースとドラムのコンビネーションを固めている。コード進行とメロディはスペイン音楽を思わせるものだが、中間部やエンディング近くにはそれとも違う風変わりなメロディが出てくる。レコードのテイクではグレースがひとりで歌っているが、レコーディング直後のライヴでは、曲の終盤部分でポールがハーモニーを付けていた。

シングル・カットされて最高全米8位まで昇る大ヒットを記録し、エアプレインの代表作のひとつとして広く認められてきた。グレースのヴォーカルは神懸かり的ともいえる独特の迫力を持った素晴らしいものだ。バンドの演奏全体は無駄がなくまとまってはいるが、どこか堅苦しさと物足りなさを感じてしまう。イントロのジャックのベースは印象的だが、彼のプレイの本領はこのような固定的なフレーズを繰り返すことではないはずだ。ヨーマのギターはイントロ以外は音数も少なく、本来の持ち味を発揮する場面がほとんどないまま曲が終ってしまう感じで残念だ。

「Somebody To Love」と「White Rabbit」の大ヒットによって、エアプレインは世界的に知られる存在となったが、そのことがかえってこのバンドの真の姿が伝わりにくい状況を作ってしまったような気がする。2つのヒット曲を歌っているとは言っても、実際のところグレース・スリックはエアプレインのリード・シンガーというわけではない。『Surrealistic Pillow』に限らず、グレースが書いてメインで歌っている曲は、その後に出た各アルバムを見ても2~3曲に留まっているケースがほとんどだ。

グレースは純粋なシンガーというよりは、ユニークな才能を持った総合的なアーティストだ。このアルバム以後の活躍ぶりを見ても、リード・ヴォーカルを取る役割よりも、バンドの一員としてアレンジのアイデアを出し、声と楽器の効果的な使い方を模索するなどして、各作品の質を高めることに大きく貢献してきた。


米国発売のシングルのB面には「Plastic Fantastic Lover」がカップリングされているが、日本ではそれと同じ形ではリリースされなかった。「あなただけを(Somebody To Love)」がサイケデリック・ブームを象徴する曲として日本でも大ヒットしたにもかかわらず、日本のレコード会社は「ホワイト・ラビット」を次のシングルのA面として出すのをなぜか見送り、A面「マイ・ベスト・フレンド」、B面「ホワイト・ラビット」というカップリングで発売した。当然の結果として、サイケ路線から離れている「マイ・ベスト・フレンド」は不発に終った。シングル盤のジャケットは二つ折りで、見たところ両A面のようなつくりだが、あくまで「マイ・ベスト・フレンド」がA面。しかし当時ラジオで実際にオンエアされたのが「マイ・ベスト・フレンド」の方だったのかどうかは記憶にない。




「White Rabbit」はいくつかの映画音楽で使われ、他のアーティストにカバーもされてきた。日本では“ザ・モップス”が68年のアルバム『Psychedelic Sounds in Japan』で取り上げたのが最初だろう。「Somebody To Love」のカバーと同じく、ギタリストの星勝がカン高い声を張り上げて歌っている。
The Mops - White Rabbit
2012年05月03日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(0)

「Embryonic Journey」

『Surrealistic Pillow』 Side-2

4. EMBRYONIC JOURNEY (1:50)
  邦題: 旅する前に
  Writer: Jorma Kaukonen
  Acoustic Guitar: JORMA
  Rec. Date: 1966-11-22

このギター・ソロによるインストゥルメンタル曲を、当初ヨーマはアルバムのために録音するつもりではなかったという。ロック・バンドのアルバムには合わない曲だと考えていたからだ。しかし、プロデューサーのリック・ジャラードは、ぜひこの曲をアルバムに入れたいと希望してヨーマをスタジオに呼び、セッションの一番最後の日にレコーディングを行った。

元々この曲は、62年にヨーマが関わったギターの講習会で使うために作られたものだった。意外にもこれはヨーマが初めて作った曲だという。アコースティック・ギター用に作られた曲だが、アメリカの伝統的な音楽だけでなく、異国のいろいろな音楽要素が混ざり合ったような不思議な響きが聴いて取れる。外交官だった父親とともに家族で世界各地に住んだ時に耳にした現地の音楽が影響を与えたという見方もできる。また、ヨーマと同時代に活躍した独創的なアコースティック・ギタリストであるジョン・フェイヒーのプレイに通じるものも感じられる。

62年のヨーマのライヴ演奏が残されている。これが初期のアレンジでまだ堅い印象がある。それからさほど大きく変化したわけではないが、『Pillow』のテイクでは節々でリズムに変化が付けられ、即興性も感じられる演奏となっている。



ギター・ソロの曲という特殊性もあって、エアプレイン時代のライヴでは一度も演奏されたことはない。しかしエアプレインの解散後、ホット・ツナあるいはヨーマのソロのステージではしばしば演奏されるレパートリーとなった。

95年には、「Embryonic Journey」をいろいろなパターンのアレンジで演ったものを収めたアルバムを発表している。初期のグレートフル・デッドでキーボードを担当したトム・コンスタンテンとの共同作品で、11種類のバリエーションを聴かせる、まさに“Embryonic Journey だらけ”のアルバムだ。
Jorma Kaukonen and Tom Constanten - Embryonic Journey
2012年05月01日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(0)

「How Do You Feel」

『Surrealistic Pillow』 Side-2

3. HOW DO YOU FEEL (3:27)
  邦題: 素敵なあの娘
  Writer: Tom Mastin
  Vocals: PAUL + Marty + Grace
  Rec. Date: 1966-11-14

アルバム中で唯一、メンバー(および元メンバー)以外の人物が書いた曲。エアプレインがレコーディングした中でも、最もゆったりとしたおだやかな雰囲気を持った曲だろう。フォーク・ロックというよりは、コーラスを主体にしたフォーク調ポップスといった感じだ。

作者のトム・マスティンは、ポールがバンド結成前にフォーク・ミュージシャンとして活動していた時代の仲間だという。シンガー&ソングライターとして、“Mastin & Brewer”というデュオを結成していたが、これは後に「One Toke Over The Line」をヒットさせて一般にも知られるようになった“Brewer & Shipley”の前身である。トム・マスティンが抜けた後、マイケル・ブリューワーの兄弟が代わりに入り“Brewer & Brewer”となり、その後トム・シップレイに入れ替わって“Brewer & Shipley”となった。“Mastin & Brewer”時代のバンドには、バッファロー・スプリングフィールドやブラッド・スウェット&ティアーズでプレイしたジム・フィールダー(b)も在籍していたようだ。




さて、グレースが吹くリコーダーでエアプレインの「How Do You Feel」はスタートする。リコーダーはグレースが「Comin' Back To Me」を演る時に突発的に思いついて使ってみたのだろうと想像していたが、この曲の録音の方が2日早い。アルバム・セッションの中のどこかで使えそうな楽器として、当初からグレースは考えて準備していたのかも知れない。

この曲でもタンバリンが効果的に使われていて、曲調を考慮して抑えたプレイをしているドラムよりも目立っている。ジェリー・ガルシアがこの曲にも参加しているとされているが、おそらく右側で鳴っている2本のアコースティック・ギターのうち、メロディックなフレーズを弾いているのがそうではないだろうか。左側のクリーンなトーンのエレクトリック・ギターはヨーマだと思う。

たっぷりとリバーブが掛った3人のコーラスで曲は進み、サビではポールがソロを歌う。マーティ&グレースのコーラスがポールと会話するような楽しいスタイルだ。ママス&パパスの「Monday Monday」を思い浮かべるような曲調で、♪ パパパァ~♪ というコーラスも、エアプレインにしては異例なほどポップなものだ。エンディングをアカペラに編集したのも、プロデューサーのリック・ジャラードのセンスなのだろう。

この曲はエアプレインが活動している間に一度もライヴで演奏されたことがない。ヴォーカル曲ではきわめて稀だ。現在に続くポール中心のジェファーソン・スターシップのライヴで何度か演奏されたことがある。正規リリースのライヴCD『Across The Sea Of Suns』の中に2001年の演奏が収録されているが、残念ながら出来はお粗末なものであった。
2012年04月29日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(0)

「D.C.B.A.-25」

『Surrealistic Pillow』 Side-2

2. D.C.B.A.-25 (2:33)
  邦題: D.C.B.A.-25
  Writer: Paul Kantner
  Vocals: PAUL + GRACE
  Rec. Date: 1966-11-15

ポールが単独で書いた曲がレコードになったのはこれが初めて。ポールのコンポーザーとしての才能は、次のアルバム『After Bathing At Baxter's』で突然大爆発することになるが、『Pillow』では「D.C.B.A.-25」と、マーティとの共作「Today」の2曲に留まっている。「D.C.B.A.-25」は奇妙なタイトルとは裏腹に穏やかで比較的地味な曲調のため、平凡なフォーク・ロックにしか聴こえないという人もいるかも知れないが、エアプレインが残した作品の中でも、この曲にだけ感じられる特別な雰囲気があると個人的には思っている。

曲名が表している通り、コード進行が「DCBA」になっている。1小節単位で書くと、イントロは D-D-C-C、歌の部分は D-D-C-C D-D-C-C B-A-B-A B-A D-D-C-C という進行である。「C」から「B」へ移る時の響きがとてもユニークで、何とも幻想的なムードを生み出している。

ベースによるイントロが、この曲の基本となるリズム・パターンを示している。歌が始まると、左側ではドラムとタンバリンが重なって鳴っていて、曲を生き生きとさせる効果を出している。

ヴォーカルをポールとグレースのデュエットにしたのも大正解だ。スタートはポールがひとりで歌い出すが、すぐにグレースが加わって最後までずっとハーモニーを付けていく。1コーラスの終わりにはハーモニーから抜けたグレースが、自ら発想したと思われるメロディを歌い上げる。「She Has Funny Cars」や「My Best Friend」でも聴かれるようなグレースの即興性の感じられるバックアップ・ヴォーカルは、エアプレインの作品の質を高める上で大きな役割を果たすようになっていった。

ヨーマの華麗な音色のギターも、この曲の魅力を形作っている重要な要素だ。クリアなトーンを使ったエレキのフィンガー・ピッキングで、歌の部分は明るい響きのアルペジオを、間奏では空中を漂うような、何とも心地良い気分にさせてくれる美しいメロディを弾いている。

2003年CD(2005年紙ジャケCDも同じ)のボーナス・トラックの最後、「White Rabbit」のシングル・バージョンに続いて、数秒の間を置いてから「D.C.B.A.-25」のヴォーカル抜きのテイクが、シークレット・トラック扱いで収録されている。



これにはタンバリンが入っていないので、ドラムのプレイをはっきりと聴くことができる。ヨーマのリード・ギターはまだフレーズが固まっていない段階で、間奏で弾くメロディはまとまりがないが、全体的なイメージやギターの音色は完成テイクとほぼ同じだ。レコードでは隠れ気味のポールのリズム・ギターが、ここでは大きくミキシングされていて、フレーズがよく聴き取れて興味深い。


アルバムの中でもあまり目立たず、話題にされることの少ない曲かも知れないが、海外でもこの曲を好んでいるファンは確実にいるようだ。

エアプレインの演奏に合わせてギターの練習をしている青年(中年?)
http://www.youtube.com/watch?v=MmRu4r8D5Z4

ユル~い雰囲気の男女ユニットによるカバー
http://www.youtube.com/watch?v=A1fh2B6lPb4
2012年04月27日  06:00 | 全記事 | TB(0) | コメント(0)